月の出を待ちて注げる「月映」の水面に菊美人の浮かび来
福岡の友人が地元の酒「月映(つくばえ)」を送ってくれた。蔵元は、江戸中期から続く菊美人酒造。六代目に北原白秋の姉加代が嫁ぎ、白秋と縁のある酒蔵だ。「主客は階上の書斎の東の窓寄りに食卓を囲んだ。誰からも月が見えるやうに対つて、室内をやや暗くして置いたものである。(略)友と私とはそこで酒杯を挙げた。妻と妻ともナイフとフオクで月の光をあさつた」(北原白秋「竹林の十月」)。友とは、若山牧水のこと。東京のマンションから眺める夜空は明るすぎるが、せめて気分だけでもと窓を開け、猪口を傾けた。
作者/加古陽(かこよう)

1962年、愛知県生まれ。「心の花」「微文積文」会員。東京新聞編集委員。第54回角川短歌賞次席。歌集『夜明けのニュースデスク』(前川佐美雄賞・筑紫歌壇賞)。歌書『一首のものがたり』(日本歌人クラブ評論賞)
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