No.539/2025年6月22日【生・猫】 影を生む傘におのれを守らせて猫眠りゐる午後の道ゆく

菅原百合絵

日本語では「日傘」は「傘」に「日」をつけただけなのに対して、フランス語では日傘はombre(影)に由来するombrelle(オンブレル)、傘はpluie(雨)に由来するparapluie(パラプリュイ)と、語の成り立ちレベルで異なっている。
日傘で思い出すのは、10年近く前のある夏のこと。長く愛用しているお気に入りの日傘があるのだが、その日、用事の帰り道にふと「日傘をもってない!」と気づいて、どこに置いてきたかしらと引き返している最中に、自分が日傘を「もってない」のは現在進行形でそれを「さしている」からだったと気づいたことがある(何を言っているか、伝わりますか……?)。探している眼鏡をかけていたなどはよく聞く話だけれど、よりによって日傘とは。人生でもっとも強烈に自分の間抜けさを意識した瞬間だったと思う。

作者/菅原百合絵(すがわらゆりえ)

1990年、東京生まれ。「心の花」会員。歌集に『たましひの薄衣』(書肆侃侃房)。本業はフランス文学研究。専門は十八世紀フランス文学・思想、とくにジャン゠ジャック・ルソー。

コメント

タイトルとURLをコピーしました