No.532/2025年6月15日【行き来】 葉をすべり落ちゆく雨よ天地(あめつち)を行き来して雨は愉しかるべし

菅原百合絵

雨が降っているときに出かけるのは億劫だけれど、部屋の中からぼんやりと雨を眺めるのは好きだ。自然災害であまり怖い経験をしたことがないからかもしれないが、大粒の雨が叩きつけるように降っていると、かえって自分の心は穏やかに凪ぎわたってゆくような気にすらなる。こういう感覚をもっているのはわたしだけではないようで、YouTubeなどの動画配信サイトには、安眠用の雨や焚き火の動画が数え切れないほどある。テントに降る雨の音、森の中の雨の音、夜のマンハッタンに降る雨の音、トタン屋根に降る雨の音……無数の雨の動画で眠りにつく、世界中の無数の人々のことを思う。

作者/菅原百合絵(すがわらゆりえ)

1990年、東京生まれ。「心の花」会員。歌集に『たましひの薄衣』(書肆侃侃房)。本業はフランス文学研究。専門は十八世紀フランス文学・思想、とくにジャン゠ジャック・ルソー。

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