No.525/2025年6月8日【覚め】 ダージリンはデスクに湯気を立てながら現し世は覚めて見る昼のゆめ

菅原百合絵

尊敬する恩師であるヴァレリー研究者の塚本昌則氏に『目覚めたまま見る夢 20世紀フランス文学序説』(岩波書店、2019年)という美しい本がある。20世紀の作家たちが注目した微細な意識の揺らぎの問題に迫ってゆく力作だが、乃上さんの歌を見ていたらこの本をふと思い出して、歌にしてみたくなった。
「出逢いとは不意の墜落」——恋とは「墜ちて」しまうものであり、そしてそれによって高揚=上昇してゆく逆説的な運動なのだなと、この一節を読んでしみじみ思う。だからこそ恋は蠱惑的で、おそろしい。『目覚めたまま見る夢』で取り上げられていた作家たち、たとえばヴァレリー、プルースト、ブルトンも、この墜落という上昇を体験した人びとだった。

作者/菅原百合絵(すがわらゆりえ)

1990年、東京生まれ。「心の花」会員。歌集に『たましひの薄衣』(書肆侃侃房)。本業はフランス文学研究。専門は十八世紀フランス文学・思想、とくにジャン゠ジャック・ルソー。

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