No.553/2025年7月6日【腕】 腕のべて神へ祈りを捧げゐる老フェヌロンよ失寵ののち

菅原百合絵

フェヌロン(1651-1715)という聖職者がいる。フランス文学史上では『テレマークの冒険』などで有名だが、神秘思想家ギュイヨン夫人のキエティスム(静寂主義)に深く影響を受けた彼は、やさしく温厚な人柄で知られた人でもあった。肖像画を見ると、その穏やかな微笑に思わず誘い込まれる。権力の中枢の近くにまで昇りつめながら、ルイ14世の支持を失って大司教区であるカンブレーに引退し、孤独のうちに没した彼の生涯を思うとき、軽く目を瞑って沈黙のうちに神に語りかける祈りの姿が自ずと浮かんでくる。

作者/菅原百合絵(すがわらゆりえ)

1990年、東京生まれ。「心の花」会員。歌集に『たましひの薄衣』(書肆侃侃房)。本業はフランス文学研究。専門は十八世紀フランス文学・思想、とくにジャン゠ジャック・ルソー。

コメント

タイトルとURLをコピーしました