No.521/2025年6月4日【透】 歯をあてて転がりゆきし思い出の梅の実ひとつ透ける水無月

乃上あつこ

今はまさに梅の実のシーズン。牧水にも梅の実の歌がある。〈拾ひつるうす赤らみし梅の実に木の間ゆきつつ歯をあてにけり〉(『独り歌へる』) 他に歌集未収録の次の一首は、土肥温泉で詠まれ歌碑にもなっている。〈花の頃に来馴れてよしと思へりし土肥に来て見つその梅の実を〉若き日の牧水が、唇をつけ歯をあてた恋は実らなかった。しかし、狂おしい気持ちを表した恋の歌は、後世に読み継がれている。

作者/乃上あつこ(のがみあつこ)

1976年、横浜市生まれ。東京女子大学文理学部卒。中国留学を経て現在は銀座の美容施設に勤務。2014年から短歌を始め、第三十一回玲瓏賞受賞。現在は玲瓏、現代短歌南の会「梁」、牧水研究会に所属。

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