「さにつらふ」色とうたはず歌びとと言へるか歯噛みし口惜しかりけり
乃上さんの下の句。「透ける」がとくにいいですね。私は梅の実のうたといえば、齋藤茂吉の「木のもとに梅はめば酸しをさな妻ひとにさにづらふ時たちにけり」(『赤光』)がすぐに思い浮かぶ、有名な幼妻の一連のなかの一首で、「さにづらふ時」と梅の実が「酸し」、の複雑な絡み合いが茂吉の微妙に揺れ動く感情を表わしている。それにしても、「さにつらふ」の語をこれまで一度も私は自作の中で使ったことのないのが残念である。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)

1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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