No.697/2025年11月27日【灯る】 ほろほろと怖く愉しきたましひの灯る絵と歌『花やゆうれい』

伊藤一彦

歌画集『花やゆうれい』(ほるぷ出版)をこのところ時間があると眺めている。歌の作者は佐藤弓生さん、絵の作者は町田尚子さんである。歌画集はほかにもあるが、『花やゆうれい』は抜きんでた一冊と思う。歌が絵を広げ、絵が歌を広げている。ほとんどの絵に猫が登場するミステリアスかつリアルな作品は帯文の言葉を借りれば、「この世の隙間の、その向こう」の世界ということになるか。私の歌の初句「ほろほろと」は佐藤さんの「ほろほろとこぼれたはなし北国の雪が小さな歯をもつことも」から借りた。当分「ほろほろとこぼれたはなし」にひたっていたい。

作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)

1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。

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