No.528/2025年6月11日【嘘】 半身は嘘でかためて世を生きるすべもつべしと悲しき先輩

伊藤一彦

塚本邦雄氏の若い日の歌に〈嘘だらけなる世に生きかねて鶏頭の茎裂けば髄の髄まで紅し〉(『透明文法』)がある。下の句のイメージが鮮烈である。鶏頭の髄の髄には紛れもない真実があるというのか、それとも髄の髄まで真っ赤な嘘に満ちているというのか。嘘だらけの世を生きるためにはこちらもそれに負けない嘘を持て。尊敬している高校と大学のある先輩にかつてアドバイスされれたことがある。嘘の言えないような優しい先輩だった。

作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)

1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。

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