No.627/2025年9月18日【酔】 酔ふかなし酔はぬもかなし火の粉舞ふ生を鎮めて盃をとる

伊藤一彦

久永さんが書いているように昨日は若山牧水の命日だった。牧水は昭和3年(1928)に世を去った。43歳だった。もっと生きてほしかったと思うが、当時の平均寿命からいえば決して若死にではない。よく生きて、よく歌った。世間では飲みすぎで死んだという。私は親友の土岐善麿の次の言葉を味わってほしいと思う。「牧水は遂に酒に生命を奪はれたーといふやうに考へることは、彼に対してあまりに粗雑過ぎる。彼は酒と融合同化してしまつたのだ。その「酒」は、舌にあまく、腸に沁みたに相違ないが、彼の長からぬ生涯を通じて思へば、あの芭蕉や西行の感じた人生の「寂しさ」が彼にとっては「酒」に象徴されてゐたのだ」(「牧水追憶」昭和3年12月「創作」若山牧水追悼号)

作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)

1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。

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