No.550/2025年7月3日【違】 すれ違ひざま腹殴(う)ちし男子ありき中途退学しその後を知らず

伊藤一彦

単位制高校の夜間部のスクールカウンセラーに赴任してまもなくの頃の歌である。廊下ですれ違ったある生徒がいきなり私の腹を殴った。さして強くはなく加減した打ち方だったがびっくりした。」数日後、その生徒に校内で再び会ったので、訳を聞いたら私の前任校が進学校だったのが気に入らなかったらしい。「奴らを教えてきたお前は俺たちとは関係ない」と。よく話してくれたと思う。それがきっかけで、その男子生徒とときに話すようになったが、いつのまのか退学してしまった。30年前のことだが、忘れられない生徒だ。いま元気でいれば50歳ぐらいのはずだ。

作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)

1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。

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