万物を産す力もつ産霊なりムス・ムスクルスもそのいとし子ぞ
ムス・ムスクルスという可愛らしい学名を久永さんに教えてもらった。「ねずみ」の語は、根の国に住むところから生まれたという説がある。『古事記』には1か所だけねずみがでてくる。オオナムヂの神が野にいるところを火を放たれて逃げ場を失ったことがある。そのとき足元でねずみの鳴き声がした。耳をこらすと、その鳴き声は「内はホラホラ、外はスプスプ」と聞こえた。そこで足元の土を踏みつけたら、内部はホラつまり空洞だったので、そこに身を沈めて難をのがれた。頭上では火がスプスプと燃えていた。さすが根の国の住人である。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)

1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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