透明な花の弾けて朝あさのささめき聞ゆる夏の噴水
透明なものには、無機的な美しさがある。私もSNSで透明愛好家による作品を見たことがある。透明なケーキはひたすら美しく、食欲はそそられなかった。食欲とは別の世界に佇んでいるように見えた。岡本かの子の『鮨』を読んでみた。色、香、味があって食べ物は食べ物らしくなる。それらがないなら、人間の体内には取り込まない花のような存在だ。人の体に栄養をもたらさず、穢しもしない。人という有機物に同化しない他者であり続ける。色、香、味を持たない透明から、声は聞こえるだろうか。囁くようなその小さな小さな声は、結局自分の心の声かもしれない。
作者/乃上あつこ(のがみあつこ)

1976年、横浜市生まれ。東京女子大学文理学部卒。中国留学を経て現在は銀座の美容施設に勤務。2014年から短歌を始め、第三十一回玲瓏賞受賞。現在は玲瓏、現代短歌南の会「梁」、牧水研究会に所属。
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