No.490/2025年5月4日【さくら・きせつ】 さくらももこの『もものかんづめ』読んでゐたきせつのことを思ひかへしつ

山下翔

さくらももこに『もものかんづめ』というエッセイ集があって、むかし読んでいた。母とまだ交流があった頃だから、小学生の頃だろう。夏休みに中古の本を売る店に連れていってもらって、買った。本を読む子どもではなかったが、なにも買わないのも気まずいと思ったのだろう。母は夕食までの時間や寝る前、寝ころんでよく文庫本を読んでいた。なんの本だったか、訊かなかったし、訊いても忘れてしまっているはずだ。〈寝ころんで母が読んでた文庫本、その横で読む『もものかんづめ』〉。はじめの「水虫」の話だけ読んでやめてしまったような気もするし、小学生でどれだけ漢字が読めたかもわからない。遠いきせつの時間のように、いま思い返される。

作者/山下翔(やましたしょう)

1990年、長崎県生まれ。福岡市在住。「やまなみ」所属、「ざんぼあ」編集同人。2007年ごろ、短歌を始める。歌集に『温泉』『meal』。現在、長崎新聞に「ぶらぶら短歌日記」連載中。

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