No.633/2025年9月24日【鱗粉】 あまりにもつつましき恋やめたまへ鱗粉などは吹きとばすべし

伊藤一彦

久永さんの恋の歌を詠んで、あまりのつつましさに胸をつかれた。「指先に鱗粉のこる静かさ」とは美しい表現だが。佐佐木幸綱が「なめらかな肌だったけ若草の妻ときめてたかもしれぬ掌(て)は」とかつて歌った青春を思う。相手にどう記憶されるかよりも、自分の「掌」の記憶のほうが重要なのだ。

作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)

1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。

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