鈴鳴らし天馬の駆けし尾鈴の山そらは秋なり万年まへの
乃上さんのうた、結句の「夜の木肌」の語が印象的ですね。尾鈴山は牧水が愛した山です。ただ、牧水が郷里で眺めたのはいわゆる裏尾鈴で、東の都農町などから眺める尾鈴山がいちばん美しいと言われている。その都農は昔から良馬の産地として知られていた。牧場が広がっていたが、牧場のなかに白馬が一頭おり、駒追いしても捕まらないまま山の中に逃げ込んだ。神馬だったのである。神馬はおりおりに天空を駆け、いなないては首の鈴をならしたという。この神馬ならびに山を「お鈴さま」と呼ぶうちに「尾鈴山」の名前が定着したらしい。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)

1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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