駆け落ちといへば白蓮 生れかはり又こん世にもわれとならむとぞ
史実や物語に有名な駆け落ちがいくつかある。私がすぐに思い浮かべるのは柳原白蓮の大正10年の逐電である。彼女とその夫であった伊藤伝右衛門との新聞紙上の公開往復書簡は世間の耳目を集めた。紆余曲折はあったが、白蓮は恋人宮崎竜介とその後結ばれた。私は「自分探しの旅」というタイトルで白蓮論を書いたことがある。その中で引いた一首に「生れかはり又こん世にもわれとならむ嬉しきに笑み苦しきに泣き」がある。この世に間違って生まれたという不幸感から出発したという彼女がようやくつかんだ本当の「われ」が駆け落ちした「われ」だった。手に入りにくい白蓮の本をずいぶん探して読んで得た思いである。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)

1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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